日本の風土は、古来より農耕によって育まれてきました。その根源にあるのは「種」です。
種は食の源泉であり、命を育む源です。そして現代社会においては、種の重要性がますますクローズアップされています。
「種」は命の連鎖を支える重要な役割
近年、コロナ禍やロシアによるウクライナのシードバンク爆破といった出来事が、種の海外依存リスクや種を保護することの安全保障上の重要性を浮き彫りにしました。
世界の中で種を握ることが、食料事情を安定させる鍵となるのです。
米中の対立が深まる中、中国は現在、食料自給の取り組みを進めています。
かつては93.6%もの高い自給率を誇った中国の食料自給率は、2020年には65.8%まで低下しています。
特に大豆の自給率はわずか17%。
さらに、野菜の種は90%以上が輸入に頼っているのです。
もしも米国などが種や食料の輸出を停止した場合、中国にとっては脅威となるでしょう。
習近平国家主席は、「種こそが我が国の食料安全保障のカギだ。自らの手で種を握ることによって、中国は食料事情を安定させることができる」と述べています。
中国の国家戦略は、「種子は農業の半導体」と位置づけ、国内での完結性を追求し国際情勢に左右されない国家づくりを目指しているといいます。
一方、日本では中国と同様に、野菜の種の90%以上を海外に依存しています。
日本政府は、主要穀物の公共種子の開発・提供事業を民間に移行し、農家の自家採種を制限する方向に舵を切っているのです。
種の知見も民間に譲渡されるということになってしまいます。
農水省が「日本の種子(たね)を守る会」に対して示した回答では、農業競力強化支援法に基づき、都道府県が提供した種苗の知見は、法施行から2020年9月末までの累計で、42都道府県で計420件に上ると報告。
また、農研機構も2020年度において1,980件の種苗の知見を提供したことが明らかになっています。
しかしながら、将来的には米のように、海外からの種子採取が90%以上に依存する状況が日本にも訪れるかもしれません。
もし最悪の事態が現実化すれば、米の自給率はわずか10%程度まで低下する恐れすらあるのです。
中国とは対照的な方策が日本の種の安全保障に繋がるのか、それは疑問です。
日本は「独立国」として、国民の命を守ることができるのでしょうか。
種という小さな存在が、命の連鎖を支える重要な役割を果たしていることを忘れてはいけません。
日本の種を守るためには、公共的な取り組みが必要であり、農業政策の見直しや積極的な種苗の開発・提供、農家の自家採種への支援など、幅広い施策が求められます。
種子の権利
種子法廃止から既に5年が経過し、生産現場では様々な影響が顕在化しているという報告がされています。
その報告の中には、種子の価格が急騰しているというものも含まれており、かつて種子法が存在していた頃と比べて、価格が上昇してしまったとの声が上がっているのです。
また、国の種子法に代わるものとして、県単位で種子条例を制定する動きが広がっていることも明らかになっています。
種子を守る会は、積極的に条例制定に取り組む必要性を確認したのです。
種子法廃止から始まった農業界の一連の変革。
農家にとっては、自家増殖が制限されるようになったり、民間への知識提供が重視されるなど、予断を許さない事態が続いています。
東京大学の鈴木宣弘教授は、種子法廃止そのものが公共的な種子事業の衰退を意図したものであったと指摘。
自治体への種子事業予算は減少し、資金が「ゲノム編集」に向けられるような状況だというのです。
種子法の消滅によって、自治体によるほ場審査や生産物審査といった種子生産に関わる規制が跡形もなく消え去りました。
それに伴い、種子の安全性や食の安全性、そして地域農業の安定性に対する不安が、各地で漂い始めています。
かくして、全国において33の道県が、種子法と同等の内容を含んだ県条例の制定に着手しているのです。
国連が掲げる「小農権利宣言」でも、我々が注目すべきは「種子の権利」です。
種子を手頃な価格で入手できること、小規模農家の種子を保護すること、農業の生物多様性を促進すること――これこそが求められている真の姿なのです。
農作物を取り巻く脅威が増大し、安全性という柱が大きく揺らいでいます。
果たして、この未曾有の局面にどう立ち向かうのか?
今こそ、日本にとって正念場となる時が訪れています。
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