<第105回全国高校野球選手権大会:慶応8-2仙台育英>◇8月23日◇決勝◇甲子園
今夏の主役は森林監督
107年ぶり2回目となる全国制覇を果たした慶應の森林監督は、試合後のインタビューで「応援の力で実力プラスアルファのものが出せた」と声を震わせていましたね。
監督のおっしゃる場面は、今大会中でも随所に見られ、慶應大応援団の迫力はチームに力を与えつつも相手チームを萎縮させるという、明らかに実力以外のパワーを見せつけたことはテレビ画面を通じてもわかるほど。
そのあり方にSNSなどでは否定的な意見が多く挙げられていましたが、次に出場した際には応援の方法はしっかり見直してくるはず。
社会の生き方の手本を勉強している慶應ですからね。
対戦された相手にはホント同情しかありません。
対仙台育英戦・決勝後の公開インタビューの慶應監督のコメントがコチラ↓
◇ 森林貴彦監督
「うちが優勝することで、高校野球の新たな可能性とか多様性とかを示せればいいなと思って、日本一をめざして、常識を覆すという目的に向けてやってきた。何かうちの優勝から、新しいものが生まれてくることがあるのであれば、それはうれしく思います。うちの優勝だけではなくて、高校野球の新しい姿につながるような勝利だったんじゃないかと思います」。
朝日ニュース文字起こし
そして主将のコメントがコチラ↓
◇ 大村昊澄主将
「ずっと日本一とか、高校野球の常識を変えたいとか、さんざん大きなことを言ってきて、笑われることもあって、いろいろいわれることもありました。でもそれに耐えて、そういう人を見返して、自分たちが絶対日本一になってやるんだという強い思いで今まで頑張ってきました。優勝が決まった瞬間、つらい思いが全部報われたなと感じました」。
朝日ニュース文字起こし
ともに根本は同じ内容ですよね。「常識を変える・覆す」ことが「勝つ」ことに加え、ひとつの大きな目的であったことが伺えます。
他の慶應選手のコメントを見ても、しっかりとその目的が浸透しているという印象がありました。
大会序盤では、X(旧Twitter)で「高校野球の嫌いなところ」というフレーズが急上昇しましたが、森林監督の著書である「Thinking Baseball ━ 慶應義塾高校野が目指す“野球を通じて引き出す価値”」から派生しています。
この本の内容は、体罰、投球過多、坊主頭の強制、厳しい上下関係、長時間練習…等のスポ根論からの脱却、また指導者から受け身のみで終わる関係を否定し「自主性」を重んじる取り組み、高校野球の常識は将来非常識になりえる可能性などを指摘した、従来の高校野球からの変革を提唱しています。
こうした現状への疑問や改革案を常に念頭に置き、監督と部員が対等に意見を出し合いながら、日々の活動を作っていくことを目指している。これまでの“ザ・高校野球”とは異なるが、新たな形を提示していき、旧来の価値観に揺さぶりを掛けることが目標で、それを使命だとも思っているとのこと。
森林監督が出られるかは分かりませんが、メディアへのオファーは殺到するでしょうね。
部訓と心得がすごい
慶應高校野球部の「部訓」と「心得」を目にした時、一般とは異なる次元で捉えるものだと感じました。
将来の指導者たる塾生の特質、まさに「プチ帝王学」のような側面が見え隠れしていたのがたいへん印象的だったので紹介します。
慶應義塾高等学校野球部 部訓
日本一になろう。日本一になりたいと思わないものはなれない
Enjoy Baseball(スポーツは明るいもの、楽しいもの)礼儀正しくあれ。どんな人に対しても、どんな場にあっても、通用するのは人間性。一人一人の人間性が慶応義塾の評価を決める。挨拶は人との最初の勝負。
自分一人で生きていると思うな。自分一人で野球をやっていると思うな。周りの者に感謝の気持ちを持て。感謝の気持ちは「ありがとう」世の中にそれほど以心伝心はない。言葉は使ってはじめて活きる。
時間厳守。組織が成り立つ、人の信頼を勝ち取る最大の武器。
個と全。グランド出たら個人の技術、精神力を高めるための最大の努力をせよ。そして同時にチーム全体の流れ、ムードを考えてプレーせよ。1人1人がキャプテンだと思っているチームのみが勝つ。自分がやって50、人をやらせて50。
他人の悪口を言うものの周りにはいつも悪口ばかり言っている者が集まる。自分の不運を嘆く者の周りにはいつも同じ類が集まる。結果とは関係なく自分のやっている事にプライドを持て。君は誇り高き我慶應義塾の同志だ。
グランド、用具は大事に。最後に神様が微笑んでくれる。
闘争心を持て。ただし相手を口で罵倒するような事はやめよう。相手の好プレーには拍手を送ろう。
グランドでは上級生、下級生は対等。しかし下級生は上級生に敬意を払い、上級生は下級生に色々と教え、叱り、同時に模範となる練習態度、学業態度を示せ。
理論武装をせよ。君達は将来の指導者だ。子供たちに正しい事を教えるために、ルール、技術論、フォーメーション、勝負哲学、体の構造、医学知識、栄養学、運動力学を知れ。慶応義塾は「身・技・体・学・伝」
返事はただ。広いグランドでは大きな声と動作がコミュニケーション。
凡人は習慣で1日を送る。天才はその日1日が生涯である。毎日が本番。大会前だけ盛り上がって全国制覇ができるか。泥棒に練習試合はない。
今の自分を許すな。自分のプログラミングが出来ない人間が負ける。
文武両道。カッコイイ生き方をしたいな。
自分の評価は自分でしろ。人の目、人の評価を気にしてばかりいるとパイプが詰まる。
自分がどんなに頑張っててもダメという相手でも、絶対に負けるのを嫌え。勝ち負けの勝負にはとことんこだわれ。負けても淡々としている奴は勝てない。早すぎるんだよ切り替えが。30対0で負けていても逆転すれば世間はそれを奇跡というんだ。自分で自分の逃げ道を作るんじゃねえ。(コツコツと真面目だけじゃ我慢できない。とことん勝負師)
男は危機に立って初めて真価が問われるものだ。チームもここぞで点をやらなきゃいいんだろ。最後は勝てばいいんだろ。
雨と風と延長とナイトゲーム、そして決勝戦には勝つ
エンドレス(いつまででもやってやろうじゃないか)
慶應義塾高校公式HPより引用
野球部の部訓なんて、私のいた野球部には存在しませんでしたよ。(☉。☉)
とにかく慶應野球部は文武両道であり続け、塾生としての誇りも常に持っておかないといけないんですね。
これを一般公開している慶應にも驚きです。
慶應義塾高等学校野球部 心得
Ⅰ.目的
・ 野球というスポーツを通して、将来の社会の先導者としての資質を身につける。
・ 日本一を目標とし、古い体質の日本の高校野球に新風を吹き込む。
・ 野球に関する高い技術・知識・体力を身につけ、卒業後、慶應義塾大学野球部に入部し、神宮球場で活躍する。
Ⅱ.学業
・ 学校生活の第一義は学業にある。授業態度の悪い者、学業向上に努力しない者、欠席・遅刻の多い者、学校の教育活動に積極的に参加しないものは、練習や試合に参加させない。
・ 成績の芳しくない者は、部長・監督・コーチとカウンセリングを行い、定期試験前の練習休業を拡大したり、クラブ活動日の限定、自粛を視野にいれ、最善策を検討する。
・ 試験等においてカンニングなどの学生として恥ずべき行為をしたものは、クラブへの参加を認めない。退部を勧告することもある。
Ⅲ.身なり
A.グランドで
・ 練習の場合:白い上下の練習用ユニフォーム、紺のアンダーシャツ、紺のストッキング、白い練習帽、また夏季は慶應Tシャツ、慶應ショートパンツを練習着とする。他チームのTシャツ等は認めない。
・ 試合の場合:試合用のグレーのユニフォーム、K帽、試合用ストッキングを全員着用すること。特にダブルヘッターの時は、チャンスが来たら、すぐに出られるよう全員が準備しておくこと。
・ 冬季トレーニングの場合:冬季トレーニング期間の3ヶ月間は通常のユニフォームを着用しない。ウオームアップ・スーツ、ジャージ、防寒用手袋、ランニング用アップシューズ等各自の判断に任せる。
・※慶應のグレーのユニフォーム、K帽、ストッキング、グランドコート等は中学から大学まで約130年もの間、OBによって受け継がれ、愛されてきたものである。これらを管理できなかったり、不正に使用した場合は厳罰に処する場合もある。
B.遠征において
・ 慶應の学生服(夏季は略装可)、もしくは野球部のポロ・シャツを着用すること。
Ⅳ.試合において
・ どんなに相手チームが汚い野次を飛ばしたとしても、慶應は常に紳士たる言動をとり、味方チームを励ますような檄だけを善しとする。また相手チームの好プレーに対しては拍手を送る余裕を常に持ちたい。
・ 攻守交代はアマチュア野球らしく全力で行ない、ダッグアウトとポジションの移動は全力疾走で行なうこと。
・ ベンチにいる全員が試合進行と勝利のために努力すること。ベンチにいる選手はボール、バット、ヘルメット等の整理、ポジションに着く選手の補助(グラブ、レガース等)を行う。また、チームのムードを高め、適切なアドバイスを送る努力をする。ベンチの力によって勝利を引き寄せよ。それと同時に、自分が大事な場面で充分仕事ができるように常に肉体的・精神的に準備を整えておく事は当然である。
・ 常にハッスルすること。どんな小さな可能性でもそれを信じ全力でプレーすること。ピッチャーゴロでも1塁へ全力で走ることが野球である。
・ 試合前や後に関係者に挨拶をし、お礼を言うことは当然のことである。公式戦はもちろん練習試合も様々な人が背後で支えてくれている。監督、部長がそばにいなくても、礼儀ある態度をとれるようでありたい。
・ 遠征(公式戦を含めて)の場合、天候から勝手に自己判断しないで前日の連絡事項を遵守すること。どんなに大雨でも現地に集合することもある。
・ 試合会場のロッカールーム(更衣室)は試合終了後、下級生が掃除をして副将がそれをチェックすること。
Ⅴ.練習においての行動
・ 練習を休む時は必ず、監督・主将・副将・新人監督に許可を得ること。また日曜・祭日・長期休業中は朝グランドに必ず本人が電話をすること。他の選手に伝言することは許さない。また休んだ次の日には必ず状況を報告すること。事後の言い訳は認めない。
・ 故障・怪我等は速やかに監督・コーチに報告すること。両者が協議して方策を考える。勝手に自分の知っている医者に行かない。また医者等に行った場合は必ず報告すること。
・ グランドや野球部の備品は学年の区別なく全員で管理・整備する。後輩にいい環境を残してやるのも大事な仕事である。ただ下級生はやるべき仕事は責任を持って遂行し、備品等に不備が出てきたら監督・マネージャーに相談すること。
・ 多人数での練習となるため安全面には各自充分注意すること。個人の身勝手な行動が他の選手の大怪我につながることを十分自覚すること。
・ 部室・ウエイトトレーニング場・トイレは各自が自覚を持ってきれいな状態を保つこと。自分達の生活の場が整っていないチームに勝利はない。
・ 各人の野球用具はしっかりとメンテナンスをし、大事に保管すること。それができてない場合は練習参加を認めない。
・ 集合時間の5分前に必ず集合していること。授業終了後は速やかにグラウンドに集合すること。・ 自分の納得の行かない事や疑問に思うことがあったら、遠慮せずに監督・コーチにどんどん質問すること。自分の野球であり、自分たちチームであることを忘れず、また大人に対しても自分の考えを堂々と述べられるようになって欲しい。
・ どんなに個人練習(ウエイトを含む)をしていても、8時半にはグラウンド、ウエイト場を離れ帰宅すること。またその時にはウエイト場の戸締まり、消灯(グラウンド・ウエイト場)を確認して帰ること。Ⅵ.遠征・合宿での行動・ 常に慶應義塾を代表しているということを忘れずに行動すること。
・ いつも一般の人たちの迷惑を考えて行動すること(特に、移動車内、食堂、浴場など)。お喋りなどに夢中になり烏合の衆にならないこと。
・ 遠征や合宿に協力してくれた人のことを考え、親やOB、関係者等にたいして各人が感謝の気持を言葉で表すこと。
・ 集合時間・門限はチーム全体の迷惑にならないように厳守すること。
Ⅶ.オフグランドで(学校生活)
・ 野球部員である前にまず慶應義塾の学生としての行動が第一である。学校に限らず学校外においても塾生として恥ずかしくない行動をとること。明らかに社会のルールや慶應義塾のルールに反した場合は退部もある。
・ 保護者あればこそ野球ができるということに感謝の気持を忘れないこと。また何らかの経済的な事情で野球を続けることが困難になった時は、かならず部長・監督に相談すること。OB会等と相談し、君たちが野球を続けられるよう最善策を考える。
慶應義塾高校HRより引用
もう普通の会社に就職して研修の時に読まされそうな内容です。「心得」もけっこうな文字数ですよ。
意外と素通りしそうな常識的な内容をわざわざ記すあたりも、社会人デビューに向けたものだと伝わってきます。中学を卒業したばかりの 15.6歳の少年にこれを暗記させるんでしょうね。
慶應義塾という名前を絶対に貶めるなよ、という圧力がひしひしと伝わってきました。
日本社会と文武両道の人材
最近の日本社会では、体育会系のなかでも学業成績優秀者のグループは体育会系と同じ括りで扱わずに、文武両道のエリートとして採用される場面が増えてきているそうです。
こういった人材は体育会系に多くみられる価値観とは違って多様性の理解、革新的な内容でも抵抗感なく受け入れるなどといった建設的思考に長けている傾向があります。
根性論や結果重視といった、昔ながらの体育会系の気質が強い人材は、会社のメリットよりも、会社が被るデメリットのほうが看過できない時代背景になっていて採用を見合わせるケースが増えているんですって。
現在では、体育会系への優遇措置を撤廃した企業も多く、文武両道の人材は体育会系には含めず、エリート、キャリア採用などとされています。
野球に100%の力を注いだ少年が結果を残せずに終わって、いざ社会に出るとなった時…。
文武両道で全国制覇、慶應って最強ですね。
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