近年、地球温暖化や気候変動が世界的な問題として取り上げられるようになり、環境に配慮した取り組みが求められるようになっています。
その中でも、再生可能エネルギーを利用した代替燃料である『e-fuel』は、環境に優しい燃料として注目を集めています。
※代替燃料とは、化石燃料に代わる燃料のことを指します。e-fuelやバイオ燃料、水素燃料電池などが挙げられ、これらの燃料は化石燃料に比べて二酸化炭素の排出量が少なく、持続可能なエネルギー源として期待されています。
今後、燃料の持続可能性やCO2排出削減に対する取り組みがますます求められる社会情勢の中、e-fuelがより注目を集める可能性があります。
はじめに
世界の社会情勢を見てみると、欧州連合では、2035年から内燃機関(エンジン)を廃止し、EVやFCVといった電動車のみの販売を目指す法案を通そうとしていましたが、一部の国々が土壇場で反対表明してきたこともあって、最終決定決議を無期限延期という形で保留していました。
以前の記事に詳細が載っていますが、この件、意外にも早く結論が出たのです。
合成燃料を用いた『e-fuel』を使用するという条件で、内燃機関(エンジン)を残すことが容認される結果となりました!(23年3月25日)
電動車の一本化を推し進めてきたEUが、大きな方針転換を行ったわけです。
これは、内燃機関(エンジン)を今後も作り続けていくことを意味しており、内燃機関喪失による失業問題を回避するもので、EU域内の自動車生産国にとってはかなりの朗報です。
2035年という期限までに想定していた技術開発やEVの様々な問題点解消の進歩事情、ロシアからの燃料供給が途絶えるエネルギー逼迫問題が影響しています。
この朗報は日本にとっても同様で、2035年以降販売が出来ない予定だった「ハイブリッド」や「プラグインハイブリッド」のエンジン車も欧州で販売できるかも知れない、という大きな方針転換になるわけです。
これ、かなり大きなニュースだと思いますが、あまりメディアでは取り上げられなかったんですね。
今回、欧州連合が容認した『e-fuel』とは、一体ナニモノなんでしょうか。
この記事では、『e-fuel』について詳しく見ていきたいと思います。
e-fuelとは?
e-fuel(イー・フューエル、合成燃料)の名前は、「エレクトロニック・フューエル」(Electronic Fuel)の略語に由来しています。
再生可能エネルギーを利用して作られる燃料であり、化石燃料に代わる代替燃料として注目されています。
e-fuelは、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を合成して作られる、炭化水素化合物の集合体である燃料のことです。
「人工的な原油」とも呼ばれ、その成分は化石燃料である原油に非常に近いという特徴があります。
製造には、電気を使って反応させるという電気化学的なプロセスが用いられることから、「Electronic」という言葉が含まれています。
また、化石燃料に頼らず、再生可能なエネルギー源を活用することができる環境に優しい燃料であることも特徴的です。
とはいえ、燃焼時に排出されるCO2が通常のガソリンを使った場合と同じという点があります。
しかし製造時にCO2を資源として利用するため、CO2の排出量と吸収量を差し引いて全体としての排出量はゼロという考えになります。
このため、カーボンニュートラルである「脱炭素燃料」とも言われています。
e-fuelの製造方法のひとつとして、DAC(Direct Air Capture)法があり、直接空気中から二酸化炭素を取り出す技術になります。
この技術では、空気を直接取り込み、二酸化炭素を吸着する吸着材を使用します。
吸着材には、有機物や無機物の化合物が用いられ、二酸化炭素と化学反応を起こして吸着。
吸着後は、温度や圧力の変化により、二酸化炭素を取り出し、取り出された二酸化炭素は、e-fuelの原料として利用されたり、地下に貯められたり、農業や工業プロセスの原料として利用されることがあります。
化石燃料に比べてCO2の排出量が少ないことが特徴であり、再生可能エネルギーを使用することによって、地球温暖化や大気汚染の問題に対処することができるのです。
また、既存の燃料インフラストラクチャーを活用することができるため、燃料供給の問題を解決することができます。
現在の日本では、ガソリンスタンドの燃料供給インフラが完璧に整備されており、自動車やオートバイなどの乗り物にとって燃料供給が確保されています。
e-fuelは、これらの既存の燃料供給インフラを活用することができるため、新たに燃料供給インフラを整備する必要がありません。
また、ガソリンやディーゼルなどと同様に液体の燃料として使用されるため、既存の燃料タンクやポンプを利用して補給することができます。
新たなインフラ整備に取り組む時間や費用などがない利点があり、何も言うことはないと思ってしまうところですが、e-fuelを実用化するにはまだまだ課題が多く残されているんです。
製造コストが高いことや、e-fuelを使用する車両にはエンジンの改修が必要な場合があるため、その費用も課題となっています。
今後の技術革新によって、これらの問題が解決される可能性がある、という段階なのです。
燃料コストについて
e-fuelの製造コストは、化石燃料に比べて一般的に高くなると考えられていますが、その差は状況によって異なります。
燃料の種類や製造プロセス、原材料、生産規模、市場動向など、多くの要因が製造コストに影響を与えます。
経済産業省・資源エネルギー庁の試算によりますと、原料の調達から製造に至るまで、全ての工程を国内で行なった場合だと、リッターあたり約700円の製造コストがかかってしまうということです。
現在のガソリンの全国平均価格がリッターあたり163円位ですから、4倍以上の価格ですね。
今のところまだまだ商業化できる水準には至っていないというところです。
どうしたらコスト下がる?
では、燃料はどのようにして価格を下げられるのでしょうか?
e-fuelの燃料代金を下げるには、以下のような方法が考えられます。
①生産規模を拡大することで、大量生産による経済的な効果を得る
生産規模を拡大することで、原料の調達や生産ラインの最適化など、多くのプロセスが効率化され、原料コストの削減や生産効率の向上が期待できます。
また、大量生産によって一定量以上の製品を生産することで、製造コストが徐々に下がります。
これは、購入した原料や製造に必要な設備の費用を、一定期間で均等に分摊することで、単位あたりのコストを下げるためです。
さらに、生産規模の拡大によって、企業の交渉力も向上し、原料や設備の調達価格を下げることができます。
生産量が増えることで、物流コストの削減や労働力の効率化も可能になります。
これらの効果によって、生産量が増えることでコストが下がるという正のサイクルが生まれます。
②プロセスの効率を改善し、より少ないエネルギーを使ってより多くの燃料を生産する
これは、生産ライン全体を最適化することで実現されます。
具体的には、以下のような方法が考えられます。
1.原料の精製プロセスの改良:原料に含まれる不純物を除去し、純度の高い原料を用いることで、反応効率を向上させることができます。
2.原料の再利用:反応に使用された原料を回収し、再利用することで、原料の消費量を減らすことができます。
3.原料の前処理:反応前に、原料を適切な温度や圧力に調整することで、反応効率を向上させることができます。
4.原料の自動化:原料の自動化により、生産ラインの効率を向上させることができます。自動化することで、原料の消費量を最適化し、ムダを減らすことができます。
5.エネルギーの再利用:反応に必要な熱や圧力を再利用することで、エネルギーの消費量を削減することができます。
これらの方法を組み合わせることで、より少ないエネルギーでより多くの燃料を生産することができ、生産コストの削減にもつながります。
③原料コストを下げることで、製造コストを削減する
e-fuelの製造に使用される原料コストを下げるには、以下のような方法があります。
1.原料を安価に入手する:e-fuelの原料となるCO2や水素は、化石燃料と同様に安価な原料として入手できます。CO2については、排出削減の観点から、CO2の購入や回収に対して支払われる価格が割高になる場合がありますが、CO2の使用範囲が広がることで、CO2の供給量が増え、価格が下がる可能性があります。水素については、電気分解法による水素の生産コストが低下し続けており、価格低下の余地があるとされています
2.生産効率を向上させる:e-fuelの生産効率を高めることで、原料の消費量を減らし、原料コストを下げることができます。生産効率を向上させる方法には、プロセスの最適化、装置の改良、省エネ化、再利用などがあります。
3.原料の再生利用:e-fuelの原料として使用されるCO2は、大気中から取り出すこともできますが、製造工程から発生するCO2を再生利用することもできます。CO2の再生利用により、原料コストを下げることができます。
4.技術革新:e-fuelの製造技術が進歩すれば、原料コストを下げることができます。例えば、新しい触媒の開発により、水素の生産コストが低下する可能性があります。
これらの方法は、e-fuelの原料コストを下げるために必要なものであり、今後も継続的な技術革新が求められます。
④技術革新を行い、製造コストを削減する。
技術革新により、製造プロセス全体を見直し、より効率的でコストのかからない方法を開発することができます。
例えば、新しい反応器を導入し、より高効率で反応を促進することができます。また、材料選定により、より安価で入手可能な原料を使用することも可能です。さらに、自動化技術やロボティクス技術の導入により、労働力コストを削減することもできます。
これにより、生産ラインの効率を向上させ、生産コストを低減することができます。
また、AIやIoTを活用で生産ラインのデータを収集・解析することで、生産プロセス全体を最適化することも可能です。
これにより、プロセスの欠陥を早期に発見し、修正することができます。
いつ下がりそう?
日本では、「合成燃料官民協議会」という組織を発足しています。
この組織は、日本の省庁・研究機関・企業等が参加して、合成燃料技術の開発・普及・実用化に向けた取り組みを行うために設立された組織です。(名だたる大企業が参加してます)
化石燃料に代わる新たなエネルギー源として期待される合成燃料の技術開発に取り組んでいます。
合成燃料官民協議会は、合成燃料の研究開発や実証実験、社会実装に必要な課題の解決に向けた各種の活動を行っており、燃料の品質基準策定や認証制度の整備、燃料の実証実験や社会実装に向けた技術開発、さらには国内外の研究機関や企業との連携などを行っています。
これらの取り組みにより、日本でも合成燃料の技術開発が進み、実用化に向けた基盤整備が進んでいます。
では実際に、いつごろ商用化できるのでしょうか。
経済産業省のホームページを見てみると、
2030年代から導入拡大でコスト低減、30年代半ばよりガソリン価格以下の実現を推進目標として定められています。
計画通りに進めば、2035年あたりで商用化される予定なんですね。
自動車産業においては、2030年代に入るころから大忙しになりそうです。
e-fuel以外にも、様々な自動車用エネルギーの開発・研究が「我先に」と世界各国で凌ぎを削って行なわれているのです。
そのほとんどが2035年を目標として動いています。
果たして何が主流になるのか、はたまた違う新しい何かが発明されるのか、自動車変遷期の中で、どの国の技術が主導権を掴むのか、とても気になります。
まとめ
世界は新しいエネルギー時代を迎えています。
この革新的な燃料は、従来の燃料と同じ燃費でありながら、環境に与える負荷を大幅に軽減することができます。
また、既存の燃料インフラストラクチャーを活用することで、燃料供給の問題も解決されます。
EUでの容認決定を受けて、多くの民間企業がe-fuelに力を注ぎ、ますます注目を集めることでしょう。
2035年頃にはガソリン価格以下の水準にすることを目標に掲げており、e-fuelがますます身近な存在になることが期待されます。
これからは、私たちがより持続可能な社会を実現するために、e-fuelが重要な役割を果たしてくれるかもしれません。
これからの技術革新に期待しましょう!
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