このたび、欧州連合(EU)が、『2035年に化石燃料を使用する自動車の販売を禁止する提案』について、大変大きな動きがありました!
なんと提案の採決が延期されることになったのです!(2023年3月7日発表)
反旗を翻す国が現れたことによって、法案可決が不可能な状態になってしまったことが影響しているのでしょう。
もともと一部のEU加盟国の中でも、輸出産業に依存する国や、自動車産業に関連する雇用が多い国など、この提案に対して懸念を表明する可能性があったのですが、長いものには巻かれるスタイルでやってきた国々は、ここにきて本音を暴露し始めてきたわけです。
何が何でも電動車一本で突進する欧州連合スタイルに、ほころびが生まれたことになりますね。
以前から孤軍奮闘で口を酸っぱくするほど訴えかけていた豊田章男会長の方針が、EU内にも賛同する声が出てきているのです。
今回は、このあたりの流れを詳しく見ていこうと思います。
はじめに
EUの2035年法案とは、欧州委員会が2021年7月に発表した法案で、EUの自動車部門における温室効果ガス排出削減を目的としたものになっています。
具体的に言うと、2035年までに化石燃料(ガソリンまたはディーゼル)を使用する自動車の販売を禁止することを検討しているため、欧州連合(EU)加盟国はもちろん日本の自動車業界にも大きな影響を与えるものなのです。
自動車メーカーは2035年までにガソリンやディーゼルエンジンを使用する自動車の生産を停止し、電気自動車、水素自動車、バイオ燃料などの代替技術に移行する必要があることになります。
これはEUが気候変動に対処するために採取した措置の一環であって、欧州委員会は「炭素中和」を目指し、2050年までにEUの温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすることを方策としていました。
ただし、この提案はまだ法制化されておらず、まずはEU加盟国の議会での承認が必要で、つい先月(2023年2月)にこの議会で可決されたとニュースがあったばかりです。
これを法制化するためには、さらにこの後の【3/7に行われる閣僚理事会】で承認を得る必要があったのですが、ここにきてドイツ、イタリア、ポーランド、ブルガリアなどの一部の国々が不支持の意向を表明してきたのです。
これは、内燃機関(エンジン)車を撤廃して「極端なEV・FCVへのシフトには賛同できない」というトヨタ自動車の考えと一致したことを意味しています。
その影響もあってEU理事会は、「法案の決定を延期する」という、EU自動車部門の基軸方針にブレーキが掛かってしまう状態に陥ってしまったわけですね。
果たして、なぜドイツやイタリアなどはこの土壇場で反対姿勢を強めたのでしょうか。
EUの自動車戦略の陰り
2035年以降、ヨーロッパにおいて内燃機関の新車販売を禁止し、電気自動車であるEVか、水素燃料電池車であるFCVといった二酸化炭素を排出しないゼロエミッション車しか販売できないようにしよう、といった内容の法案を可決する動きだったのですが、これはカーボンニュートラルの達成という目標のために打ち出された地球環境の保護が目的とされています。
ゼロエミッション…環境を汚染したり、気候を混乱させる廃棄物を排出しないエンジン、モーター、しくみ、または、その他のエネルギー源
しかし、裏の目的は皆さんもご存じかと思いますが、日本車メーカーが得意とする内燃機関(エンジン)自体を禁止することによって、日本車のシェアを無くすという、ヨーロッパの自動車ユーザーの選択肢を無視した稚出な政治主導の行動が隠されているわけです。
「化石燃料を使用する車は撤廃する」という、いわゆる日本車の締め出しを図っているんですね。
トヨタのハイブリッド技術はフリーで技術公開しているものの、どの国も真似ができないほど優れた技術なので、到底太刀打ちできないと判断したEUはこの法案を突き進めていたわけです。
中でも、起死回生を目論んでクリーンディーゼル車の展開に全力を注ぎ込んだ時期もありましたが、フォルクスワーゲンの不正が明らかになり、「大失敗」どころでは済まされない「奈落の底まで信用失墜」という結果の影響からもこの動きに至ったという経緯が伺えます。
ですのでEUとしては、是が非でもこの法案を通して主導権の獲得を目論んでいたわけなんですが、最終決議である【3/7の閣僚理事会】が、反対を表明した国々の影響があり延期されることになったのです。
閣僚理事会の採決は、「EU27ヶ国のうち15ヶ国以上の同意が不可欠」であるとともに、「その15ヶ国でEUの人口の65%以上を占める」必要があり、ドイツだけの反対ならこの法案は承認される予定だったのですが、他の国からも反対を表明されたことによって、確実に否決になることが分かったことが理由です。
元々は、一致した考えの中で突き進めていたプロジェクトだったのですが、時間を経るにつれ意見の変化が如実に表れてしまったのです。
その理由としては、近年のロシアウクライナ情勢におけるエネルギー逼迫問題や、内燃機関撤廃による雇用損失問題、EV車の充電渋滞問題、リチウム価格の高騰問題、EV車のバッテリー排気汚染問題、さらには利益を得るのはEV関連の特許を独占している中国になる、という数々の問題点が浮き彫りになってきたからなんです。
ドイツ、イタリアなどの反対諸国は、EUが当初考えていた内燃機関(エンジン)撤廃 ⇒ 電動一本化の政策にリアルな危険を感じてきたからだと言えます。
常駐代表委員会のホルムベリ報道官は、今後適切な時期にこの議題に戻ると説明されましたが、採決の延期日程は明らかにされておりません。
反対諸国の主張
EUの中で最も力を持つドイツが、この法案に賛成する条件を述べています。
ドイツはヨーロッパにおいて最強の自動車産業国なのですが、今回合成燃料である「e-fuel」のみで走行する内燃機関(エンジン)の新車登録が許可されない限り、法案を指示しないと表明しました。
「e-fuel」(イー・フューエル)とは、化石燃料と同様に液体状でエンジン内で燃焼して動力を発揮する燃料のことを言い、化石燃料と違う点はCO2と風力や太陽光などの自然エネルギーによって生成される水素を使った合成燃料なので、カーボンニュートラル達成に大きく貢献されるものなのです。
ドイツはこの技術を利用するために、内燃機関(エンジン)を残すことでユーザーの選択肢を保ちつつ、またエンジン製造に関わる人々の雇用を守ろうとしているのです。
EU域内の製造業就業者の12%に相当する340万人を雇用している自動車業界において、電動車一本化政策を実行されれば、多くの人々が職を失うことは明白です。
電動化は内燃機関(エンジン)と違い、圧倒的に部品点数が少ないためエンジンに関わるサプライヤーは仕事が無くなってしまうわけなんです。
日本においても電動車一本化で進んでしまえば、国内550万人の自動車業界関連の労働者のうち100万人が職を失うという試算がされています。
トヨタが水素エンジン車やHV車で、内燃機関(エンジン)を残しつつ、雇用を守ろうとしているのとまったく同じ考えになったことが分かります。
またイタリアは、環境対策として化石燃料からの脱却策を電動化一本を唯一の手段にすべきでないと指摘し、環境目標は雇用と生産への悪影響を避ける必要がある、と話しています。
やはり内燃機関(エンジン)を製造出来る国などは、極端な電動シフトに違和感を持っていたようですね。
現時点でのEV車は、走行時には排出しないとはいえ製造時には莫大なCO2を排出していますし、リチウムやコバルトなどのレア資源を大量に使用します。
カーボンニュートラルを目指すために、トータルで見ると従来と変わらないCO2を排出するEV車や、より多くのレア資源を使用しなければEV車は作れないという状態で「電動化一本政策」が適切であるかと言われれば、決してそうではないということを勇気を振り絞って表明してくれたんですね。
ただ、「電動化そのものに断固反対している」というものではなく「電動化自体には賛成だが、2035年というリミットが性急で非現実的である」という立場なのです。
欧州自動車工業会や欧州自動車部品工業会といった各団体も全くの同意見であるということです。
バッテリーなどの技術開発と政策の動きが一致していないんですね。
今後のEUで予想される事
EU全体の自動車業界において今後考えられることは、「延期」となると自動車メーカーやサプライヤーなどが直面する不確実性が高まり、投資や業務の計画立案が困難になる可能性が出てきます。
経済への影響も同様で、悪影響は否めません。
環境の面で見ると、エミッション規制やクリーンエネルギー技術などに関するEUの規制にも影響を受け、取り組みの遅れが確実に発生します。
EUは自動車部門に関する規制を強化することで、グローバルな自動車業界のリーダーとしての地位を確立しており、この延期によってEUの立場が弱体化し、その他の地域や国々に対して影響力が低下することにも繋がっていきます。
今後もしこの法案が「否決」となった場合、EU域内は大混乱を起こすことは間違いないでしょう。
様々な場面で、いつも自分に都合のいいルール変更を行う気質のヨーロッパなので、どうにかしそうな気もするのですが、今は必死になって対応策を考えている事と思います。
まとめ
EVブームが始まった頃、日本国内でも日本の自動車メーカーに対して厳しい批判がメディア等で発信されており、中でも元知事経験者や藍色のサングラスを使用しているMC芸人なども米・テスラを激推しし、「日本も早急にクリーンなEV化にすぐに動け」などと強い口調でおっしゃっていましたが、今の意見を聞いてみたいですね。
自動車産業における未来像は、今や多角的な技術分野を取り込むことが不可欠です。
EUの自動車部門における規制合意が遅れる中、トヨタ自動車は自動車産業の未来に向けた全方位戦略を掲げ、水素燃料電池技術、自動運転技術など、多様な分野に注力しています。
これは、将来的な自動車規制による影響を抑え、競争力を高めるための戦略的なアプローチであり、自動車産業の未来に向けた模範的な存在と言えます。
自動車メーカーはトヨタ自動車のような多角的な戦略を取ることが求められているのではないでしょうか。
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